
日本のビジネスを強くする魔法の言葉 「減価償却」
想像してみてほしい。あなたの会社が、ある若手アーティストの絵を80万円で買ったとする。
多くの人はこう考えるだろう。「80万円も使って、会社に何の得があるのか?」「ただの贅沢品じゃないか」と。
しかし、今の日本の法律では、この考え方は半分間違っている。
実は、100万円未満のアート作品であれば、それをパソコンやデスクと同じように、数年間にわたって「減価償却」、つまり会社の経費として処理することができる。
100万円の利益をただ持っていれば税金がかかるが、それをアートという形に変えることで、税金を抑えながら、会社の財産を「モノ」として手元に残すことができるのだ。
「アートはお金持ちの道楽だ」という思い込みを捨て、アートを賢く持ち、賢く使う。
これは、これからの日本企業が生き残るための、極めて合理的なビジネス戦略なのだ。
欧米の銀行が「アートの目利き」を雇う理由
世界を動かす巨大銀行、スイスのUBSやドイツ銀行。彼らが何十年も前から、数万点に及ぶ現代アートのコレクションを積み上げていることをご存知だろうか。
彼らは単に「オフィスを綺麗にしたい」から絵を買っているのではない。彼らにとって、アートは「ポートフォリオ(資産の組み合わせ)」の重要な一部なのだ。
驚くべきことに、これらの銀行の「プライベートバンク部門」には、プロのキュレーターが常駐している。
彼らは顧客に対して、「不動産や株だけでなく、アートも資産として持ちなさい」とアドバイスしている。
なぜか。それは、アートが株や現金とは異なる動きをする資産だからだ。
景気が悪くなったときでも価値が落ちにくい「守りの資産」であり、同時に、作家が有名になれば何十倍にも跳ね上がる可能性がある「攻めの資産」であることを、彼らは歴史から知っているのである。
「無名で多量」が未来を創る —— ロックフェラーの教え
ここで、アメリカの伝説的な大富豪、ロックフェラー家が作った財団の戦略を見てみよう。
彼らが凄まじいのは、すでに有名な作家の絵を高く買うことではなく、「まだ無名のアーティストの作品を、圧倒的な量で購入した」ことにある。
これこそが、企業がアートに取り組む真の醍醐味だ。
まだ誰にも見つかっていない才能を、1点数十万円で100点、200点と「多量」に購入する。
投資家的な視点で見れば、その中の1人でも世界的なスターになれば、コレクション全体の価値は買い値の何百倍にもなる。
しかし、この戦略の本当の凄さは「値上がり益」だけではない。無名の若手を支え続け、その中から文化を創り出す。その姿勢そのものが、企業にとって最高の「文化資本」となるのだ。
あのアンディウォーホルを、まだ誰も見向きもしなかった頃から買っていたのはロックフェラー財団であり、そういうことは日本の会社でも可能なのだ。
この事実は、数千万円の広告を打つよりも深く、世界中からの信頼を勝ち取ることができる。
目先の利益だけでなく、数十年後に「大きな花」を咲かせるための種まき。それこそが、企業が行うべき高度なCSR(社会的責任)の姿ではないだろうか。
「三方よし」で回る、アートの経済圏
アートを企業が買うことは、作家、ギャラリー、そして企業自身の三者すべてに利益をもたらす「三方よし」の仕組みである。
・作家(作る人):
作品が売れることで、次の制作費と生活費が手に入る。アルバイトに時間を奪われることなく、創作に没頭できる「自由」が得られる。
・ギャラリー(つなぐ人):
作品が流通することで、新しい才能を発掘し、育てるための資金が回る。市場が活性化し、より質の高いアートが世に出てくる。
・企業(買う人):
節税メリットを受けながら、将来価値が上がる可能性のある資産を持つことができる。さらに、オフィスにアートがあることで社員の創造性が刺激され、社外からは「文化を大切にする一流の企業」として尊敬される。
アートを「流動資産」に変える
これからの日本に必要なのは、アートを特別な聖域に閉じ込めるのではなく、ビジネスの現場に「流動資産」として迎え入れることだ。
100万円未満の作品をコツコツと、しかし大胆にコレクションしていく。それは事務用品を買うのと同じくらい、企業の日常的な風景になるべきだ。
特に、資金力のある企業こそが、この「無名に多量」のコレクションを始めるべきである。
それが繰り返されることで、日本のアート市場には「厚み」が生まれ、才能あるアーティストたちが飢えることなく表現を続けられるようになる。
アートは、眺めているだけのものではない。「持ち、使い、循環させる」ものだ。
この「当たり前の経済感覚」をビジネス界に浸透させたとき、日本のアートは魔法から解き放たれ、真に持続可能な文化へと進化するだろう。
2026年1月7日(水)からギャラリーにて個展「Wavelengths 2026」を開催いたします!
石川美奈子「Wavelengths 2026」
2026年1月7日(水) ~ 1月24日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
石川美奈子個展「Wavelengths 2026」の展覧会情報はこちら